
金賞受賞から三十年
Q 現代洋画精鋭選抜展で金賞を受賞されてから三十年になるそうですね。
A はい、第十六回現代洋画精鋭選選抜展で金賞を受賞し、一枚の繪で作家活動を始めてから三十年がたちました。当時の一枚の繪の画廊の黒い壁面に憧れて、なんとかあのギャラリーに自分の絵が飾られたら、という思いで応募しましたが、金賞をとれるとは思っていませんでした。それまでは一次審査通過止まりで、色面で構成する私の絵は一枚の繪で取り扱っている作品とはちょっと傾向が違うかなと考えていたので、金賞受賞は思いがけない喜びでした。
竹田厳道会長からも「あなたを金賞に選んだのは一枚の繪としても冒険だ」と言われたのですが、授賞式のパーティの時、村田省蔵先生が推してくださったと聞きました。村田先生のおかげで金賞をもらえたようなもので、昨年、村田先生が亡くなられたことは本当に残念でなりません。いつか村田先生と取材にご一緒したいという希望はかないませんでしたが、一昨年のギャラリー一枚の繪での私の個展を見て、「中谷さんのスケッチは一級品だね」と言ってくださったことがとても嬉しく、忘れられないです。
金賞受賞から十年間は二足のわらじで、設計会社に勤務しながら作家活動をしていました。当時、設計部門の責任者だったこともあって、竹田会長に画家専業を勧められたのを断り、その代わり、作品の注文や展覧会場出席など一枚の繪の仕事は、期日厳守で必ずやると約束しました。十年目に会社を辞めて画業一本でやっていく決心をしたのは、一枚の繪のオーロラ取材でフィンランドのラップランドへ八日間の旅をしたことがきっかけです。この時のオーロラの絵は月刊誌『一枚の繪』の表紙を飾り、私にとって一つの大きな転機になりました。二足のわらじ時代はなにかと大変でしたが、その頃から現在に至るまで、竹田会長との約束は守り続けています。
金賞受賞作のモチーフを新たに
Q 金賞受賞作のモチーフはその後も長く描き続けていらっしゃいますね。
A 当時の現代洋画精鋭選抜展の規定で、一次、二次審査合わせて三点での応募でした。モチーフは、富良野のラベンダー畑、上高地の大正池のケショウヤナギ、信州・聖高原のカラマツの紅葉です。
金賞受賞を機に、国内外の各地に取材に出かける機会やモチーフも広がりましたが、この三つのモチーフはずっと大切に描き続けてきました。 今回、一枚の繪での作家活動三十年の軌跡を顧みて、このモチーフを今だったらどう描くかということで、金賞受賞三作品と同じモチーフ、同じサイズで新たに制作しました。聖高原のカラマツは、金賞受賞作はやや沈んだローズグレーを主調に紅葉を表現しましたが、今回の制作ではもっと
明るい色味で、色づくと一晩のうちに落葉してしまうカラマツの美しさを表現しています。
この三十年の間に上手くなったという実感はないですが、絵が柔らかく、色づかいは明るくなり、構成も密になってきました。何十枚と描いてきたケショウヤナギのモチーフも、近年の作品ほど良くなっているのではないかと思います。 |
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