今月のおすすめ作品<花の歌声>お知らせ

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まだまだ冷たい空気の中にも、そこはかとなく春の気配が感じられるこの季節。待ち望まれる桜便りを先取りして、今月は歌うように咲き競う桜を描いた作品の中から、おすすめの5点をご紹介します。

鎮西直秀 「瑞輝 富士・西伊豆春光」


「瑞輝 富士・西伊豆春光」 紙に油彩特2号(16.7×33.4cm) 165,000円(税込)
ちんぜい・なおひで
自分が感じる「日本美」を、独自の表現で画面に描出したい。そう願いながら制作している私にとって、いうまでもなく「桜」は重要なモチーフになっています。日本人と桜の関係を考えるとき、その昔は国威発揚の道具とされてしまった残念な時代もあったことは、いつも心に引っかかっています。事実、若い頃は桜を描くことはありませんでした。しかし、年を重ねていくうちに、私にとって桜を描くことは避けて通れない必然の命題となってきました。なぜか。やはり千年以上も前の平安時代から桜を愛し続けてきた日本人のDNAが色濃くあるからに違いないと思っているのです。今回、描いたのはやはり私のライフワークとなっている富士。桜咲く西伊豆から駿河湾越しに眺望した作品です。(鎮西直秀

須藤和之 「花のたび」


「花のたび」 日本画6号 396,000円(税込)
すとう・かずゆき
妙義山の桜を描こうと思い立って、朝早くに取材に出かけたのですが、目当ての桜はまだ咲いていませんでした。車から降りて、山あいの駐車場から辺りを見渡すと、遠くの山に開花しているいくつかの桜を見つけました。淡いピンク色の花は朝の光を浴びて輝き、広がる空とともに春の色合いが少しずつ森の中に舞い降りてくるようでした。目当てとは違う場所で新しい発見をすることも取材の醍醐味のひとつでもあります。そんな出来事に恵まれた日となりました。明けゆく空に風が起きると、見つめた桜は樹々と一緒にまるでひそかに歌っているかのように揺れていました。風を伝って空を包み込み、山のこだまのような花の歌声が響いてきました。(須藤和之

立川広己 「悠久の古木」


「悠久の古木」 油彩10号 495,000円(税込)
たちかわ・ひろみ
幾千の時を経て、今も春の訪れを知らせてくれる桜、心の花桜。今年もその優美な世界に浸りたい。(立川広己

百瀬太虚 「本郷の又兵衛桜(奈良宇陀市)」


「本郷の又兵衛桜(奈良宇陀市)」 油彩M8号 352,000円(税込)
ももせ・たいこ
別名「本郷の瀧桜」、樹齢三百年のしだれ桜です。戦国時代に活躍した武将である後藤又兵衛の屋敷跡と言われる石垣の上にあります。滝のようにしだれ落ちる花の盛りには、背後に桃の花も咲き乱れ、春爛漫の華やかな景色となります。(百瀬太虚

湯澤美麻 「旅人」


「旅人」 油彩M6号 198,000円(税込)
ゆざわ・みま
桜というのは、春そのものだなと思います。春になると新しい季節への期待と不安が入り交じって、うれしいようなそうではないような、もやもやとした心地がします。そうした相反する感情がくすぶっているのが、桜もそっくりだと思うのです。桜が咲くと景色が一気に華やいで気持ちも晴れてきます。一方で、その姿に目を奪われていると、次第になぜか切ないような悲しいような、でもなんとなく温かい、そんな気持ちがわき起こるのです。そこにはきっと桜の花の命の短さと、人の世の儚さを重ねてしまう無意識の中の意識が働いているのだろうと思います。そんな言葉だけでは言い表せないような何とも言えない感情を描き表すすべをまだ身につけていませんが、桜を取り囲む空気感を少しでも表現できたらと思いながら描きました。(湯澤美麻