Spotlight-画家インタビュー 杉本雅士Pickup

杉本雅士「秋の夕」 油彩6号 198,000円

杉本雅士展-展覧会情報
子どもをメインモチーフに、人物画を描き続ける杉本雅士先生。愛らしい表情やしぐさの中に気品をたたえ、光や風をもとらえたその作品には、モデルの個を超えた普遍性が宿ります。モデルの変遷、子どもの絵に託す願い、今年の個展に向けたメッセージなどを伺いました。
杉本雅士先生
子どもの絵と女性像
Q.モデルの変遷についてお聞かせください。
杉本:子どもを描き始めたのは長男が2歳になった時です。その後、モデルは3人の娘たちに移っていきました。自分の子どもたちが成長してからは、幼い子どものモデルは親戚の姉妹にお願いすることになりました。
大人になった娘たちは女性像として登場することとなりますが、「子どもの絵」ということ自体が意味合いを持っていたものが、「女性像」ではそうはいかず、思いを託すという点においても、確立した自我の存在に状況は変わりました。女性像として描き、見てもらいながらも、私の中では我が子との思いが逆に強くなっているように感じます。4人の子ども皆が孫を授かり、子ども像を描き続けるならばモデル確保は前途洋々。あとは私がその恵まれた状況を生かすことができるかです。
子どもの絵に託す希望ある未来
Q.子どもを中心とした人物画で表現したいことは?
杉本:子どもを描きはじめた時、我が子の健やかな成長、平穏な日常が続いてくれることへの願いがありました。それは変わりませんが、我が子を描きながらも一般化、普遍化したいとの思いは当然あり、子どもたちの表情やしぐさ、それを照らす光、吹く風、取り巻く空気感に季節の移ろいや、諸々の思いを託すことができればと思います。そして希望であり未来そのものである子どもたちに、希望のもてる未来をと願いながら筆をとり、色を重ねています。
光や風をとらえて
Q.近作について
杉本:「秋の夕」-輝く髪に秋の夕暮れの光を捉えたいと制作したものです。光る髪の毛の明るさを強調しようと背景を暗く描き始めましたが、手を入れる度に少しずつ明るくなりました。
「希望」-『願い』をテーマに、命を宿している三女をモデルに手を組む同一ポーズで何枚か描いた作品の一枚です。木漏れ日の明暗の繰り返しをテーマに重ねたいと思いましたが、邪魔になっていないか、背景をどこまで具体的に描くのか等、行きつ戻りつの制作でした。
「愛日」-すでに娘さんになっているモデルさんの幼い日の記録から描いたものです。自然の中の人間(子ども)はテーマの一つで、いつか描きたいと思っていた姿です。顔に焦点を当てるのか、広がりを求めて手前を描き込むのかと迷いました。冬の日差しに自然が感じられるものになっていれば幸いです。
「めぐる風」-主題である風になびく髪と、珍しく描いた洋服の柄、陰にある少女の顔の色の関係性に注力しました。もっと描き込みたいとも思いましたが、いつものようにつかみかけたものを逃して、苦労を重ねることになりそうで、今回は「つかめたかも!?と感じたここで!!」と筆をおきました。
めぐる風に込めた思い
Q.今回の個展に向けてメッセージをお願いします。
杉本:11年ぶりのギャラリー一枚の繪での個展となります。この間、コロナ禍、ウクライナやパレスチナをはじめとした戦争や紛争、より協調が求められるはずが分断が進んでいると感じる世界、そして気候変動によって激しさを増す災害等々、考え始めると悲観的になってしまいます。相変わらず子どもを描きながら、希望が持てる世界になることを願うばかりの無力な日々ですが、その思いはより強いものとなっています。それが絵の力につながってくれると良いのですが。
個展のサブタイトルは「めぐる風」としました。光、そして風が制作における私の大きな関心事ですが、成長を願い描いてきた子どもたちが父となり母となり、その子どもたちにモデルが移ろうとしています。それまでに長くもあり短くもありの時が流れ、様々な経験がありました。去り行く時に思いをはせつつ、今、新たにめぐりくる風に思いを込めて描いた作品を見ていただければと思います。
※より詳しいインタビューは、『一枚の繪』2025年6・7月号をご覧ください。
◎杉本雅士 すぎもと・まさし
1957 岡山県に生まれる
1972頃 ロートレック、クールベに憧れて画家を目指す
1980 武蔵野美術大学卒業
1981 公立中学校美術教員として勤務
1983 子どもたち(長男から三姉妹の妹たちへ)をモデルに制作を始める
1990 私立高校美術教員として勤務
1993 現代洋画精鋭選抜展銅賞
1996 現代洋画精鋭選抜展銅賞
2010 ギャラリー一枚の繪にて個展
2011 親戚の三姉妹をモデルに制作を始める
2014 ギャラリー一枚の繪にて個展
2021 同校講師として勤務(ʼ 23まで)
2022 孫をモデルに制作を始める
2025 ギャラリー一枚の繪にて個展