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葛西俊逸 『富士』 油彩P15号 |
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葛西俊逸 『ハーモニー』 油彩F6号 |
絵が好きなことと、
モチーフが好きなことと
葛西先生は1957年青森生まれ。1993年第22回現代洋画精鋭選抜展で銀賞を受賞。樹肌や山肌を緻密に描いてその絵画空間から叙情的な、見る者の心にときに望郷の念を抱かせ、ときに自然の偉大さに敬虔な思いを抱かせる風景作品を描き頭角を現しました。2000年に一枚の繪銀座美術館で東京で初個展を開催し、「一枚の繪」誌上、ギャラリー一枚の繪をはじめ全国の百貨店美術画廊などで展覧会を開催しています。
制作過程を垣間見ると、画布に一筆ひとふで、牛の足の運びのように絵具を置き進む葛西先生。中世祭壇画として描かれるフレスコ画を汗をかく額を拭わずに描き続ける生まれながらの絵師のごとくに思えるのですが、先生に、画家になろうと思ったきっかけをうかがうと、
「正直、画家になろうと思ったことはありませんし、思ってもいませんでした。ただ子供のころから絵を描く事は好きでした。(学生時代は)ずっと野球部でしたが、美術部の先生から何度もさそわれた事はおぼえています。
一枚の繪主催・現代洋画精鋭選抜展に出品したのは、いったい自分の絵はどのへんなんだろうと思って、それを知りたくて出しました」
葛西先生の描き方は、いきなり、思わぬところから描きはじめることがあってびっくりさせられた記憶があります(もちろん、描き方は人それぞれですが)。たとえば、『ハーモニー』だったら、いきなり白樺の樹肌から色を置き始めるといった具合に。ただそれは、ひとえに葛西先生の「絵が好き」なことと、モチーフ(樹木)が好きだということのあらわれなのだと思います。その好きが、対象に向かって何の作為を持たず、樹木の美の核心を掴んでキャンバスに描きあげていくのです。
「現場制作の時はほとんど何も考えていません。何か考えていると絵を描く事ができないからです。
アトリエ制作の時は筆を持つ以前に自分の好きな画家の絵を思い出したり彼等はどうやってあの絵を描いていたんだろうと考えていたり、自分なりの絵を描くためにはどうしたらいいんだろうと何時間も考えていますが、描き始めるとやはりほとんど何も考えていません」
一心不乱、ということは「何も考え」ずに為す(描く)ことなのだと、自然を描く葛西先生に教えられます。特定の師につかず、ひとり、試行錯誤を重ねて描き続けてきた、という点でも、大げさでもなんでもなく、若冲や円空に合い通じるような、彼らのつくりあげた絵画や仏像を見た時に感じるのと同じような、尊いまでの一心不乱さを葛西先生の作品から感じることができます。
「自然はすばらしいという事です。自然の作りあげる樹木の枝の表情、木肌の美しさ、空や水のさまざまな表情、石や土にいたるまで、こまかな一つ一つに特別なものを感じています。それを少しでも表現できていたら幸せだなぁと思います」 |