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『電子レンジ』 油彩F30 号
(絵の現在 第44 回 選抜展 銀賞受賞作) |
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絵を描くことは同時に(対象を)見ることでもあります。目の前にあるものをつぶさに見つめて絵などに再現することは、簡単なようでいて実に難しい。そのことを、眼と、手という身体感覚を通して感得したことは絵画表現に大いに役立っています。『甘エビ』や『〜カボチャ』からも、対象の造型の確かさをしっかりと感じるのは、河原先生の対象を注視する力、対象を注視して反射してくる、自分自身は対象から何を表現したいのかが、絵隈のように画面からじわりと見えるかのようです。
ゴッホ、アントニオ・ロペス
多感な高校時代、河原先生にひとりの画家との出会いが訪れます。
対象を見つめる力が画面から強烈に感じられるのは、あの『ひまわり』からも容易に分かりますが、このときの河原先生の衝撃は、相当なものだったのでしょう。
高校卒業後、大学は金沢美術工芸大学へ進学。自身の表現をより深く掘り拡げていくことに邁進していきます。
高校時代にはゴッホに影響を受けた河原先生。大学ではスペインリアリズムの巨匠、アントニオ・ロペスに魅了されました。
タッチを生かした表現をするゴッホと、リアリズムの極北のような描写をするアントニオ・ロペスという対照的な描き方をする2人ですが、対象をつぶさに見つめ続けることで生まれた作品という点では、通奏低音は両者に共通のものがあることを、意識的にか無意識的にか河原先生は感じ取っていたに違いなく、それ故に魅了されたのでしょう。
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『甘エビ』 油彩P8号
(絵の現在 第44 回 選抜展 受賞者
発表展出品作品) |
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『卓上にカボチャ』 油彩P10号
(「一枚の繪」2021 年2・3月号
掲載作品) |
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そこに「在る」感じの美しさ、全体感を意識して
2016年春、大学院(修士)を修了してからは、金沢の地で働きながらの画業の日々をおくる河原先生。公募展やコンクールに応募して、発表の機会を徐々に広げていきました。
2017年の京展入選を皮切りに、翌18年は日本芸術センター絵画公募展入選、菱川賞優秀作家賞、K写実洋画コンクール優秀賞、しんわ美術展銅賞という成果を得ました。19年にはK洋画コンクール優秀賞、しんわ美術展奨励賞を受賞され、その勢いそのままに、昨年、2020年に、絵の現在 第44回 選抜展で銀賞を受賞されました。
受賞作はご自身の使われている電子レンジがモチーフに。「日々の生活で身近にあるもの。親しみがありきれいだなと思えるものをシンプルに描こうと思いました」という受賞作は、高校時代に学んだ「見ることの重要性」を感得した成果ともいえる、毎日見続けている、生きるために必要な食べ物をつくる調理家電。アントニオ・ロペスの『洗面台と鏡』を想起させる静かな存在感は、日々使っている画家の日常のリアルを見る者に幻視させてくれます。
河原先生の、絵画というタブローで表現したいものは、「自分が感じたことを素直に表せて、観る人にも無意識に共感」される絵。河原作品は観る者に心地よい浸透圧で感受される画家のイデアの表出とでも言いましょうか、それは、どこか懐かしく、経験したことがあるような、感じたことがあるような何か、なのでしょうか。モチーフの電子レンジや甘エビやカボチャ、それらのある空間それ自体から、静かに語りかけてくれます。
モチーフによって制作の仕方を試行錯誤
「人の本当の仕事は30歳になってから始まる」とはゴッホのことばですが、河原先生は今年30歳。画家としての仕事が本格化するのは、今年からなのかもしれません。
画家をはじめ、創作家というのも永遠に試行錯誤が続く仕事をしています。常に昨日の自分を更新しながらも、郷愁を思い抱かせるかのように「観る人にも無意識に共感」される作品を、これからも生み出してくれることでしょう。
個展はこれから、という河原先生。じっくり、そしてたっぷりとまとまって作品を拝見できるのは、遠いことではないかもしれません。ゴッホのことばがそれを裏付けているのですから。
※河原先生の新作は、3月21日発売の「一枚の繪」4・5月号に掲載されます。 |