Hope ?注目の若手画家? #8 細川 進Pickup

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コンクールや公募団体展など、美術界では毎年のように期待の若手が輩出されています。「Hope」では、主に〈絵の現在 選抜展〉の受賞者で、画家として第一歩を踏み出した新人や若手作家にスポットを当て、制作に際して何を思い絵筆をふるっているのか、また、画家になるまでのことから、これからの展望などをご紹介します。

心動かされた対象を描き留めたい

 「Hope」第8回は、細川進(ほそかわ・すすむ)先生。
 2022年、一枚の繪主催絵の現在第45回選抜展で最高賞の金賞を受賞された細川先生。求道的とも見受けられる画布に向かう心持ちと、現在にいたる画家への道のり、作品についてお話をうかがいました。

細川進先生(絵の現在選抜展受賞者発表展会場にて撮影)

「月並みですが、綺麗だなとかこれ面白いなとか心動かされた対象の、動き・雰囲気・光の調子などを描き留めたいということでしょうか。」

 実直な面差しのやさしい調子で、作品で表現したいものは何かをおうかがいすると、シンプルにして(描く人にとっては)そうすることがもっとも難しいであろうおことばをいただきました。が、画家にとってはこれがすべてだということも強く感じさせます。
 1954年、北海道に生まれた細川先生。多くの画家と同じように、小さい頃から絵を描くのが好きだったそうです。

「中学生の時、選挙のポスターを描いてアグリッパ(古代ローマ、初代皇帝アウグストゥスの部下、マルクス・ウィプサニウス・アグリッパ)の石膏像をもらったことがありましたが、本格的に描き始めたのは高校生になって美術部に入部してからです。1969年にドラクロア展(京都市美術館、東京国立博物館で開催)があり、そこで展観した感動が出発点になっているように思います。その頃は印象派の絵が好きでした。」

 新古典主義の流れをくむロマン派の画家や印象派の作品に心動かされた青年期。ドラクロアの『民衆を導く自由の女神』に導かれたかのように、しかしながら、牛の歩みでゆっくりと一歩ずつ、細川青年は画家への地歩を築き上げていったのでしょう。
 大学は美大ではなく一般の大学(国際基督教大学)。「(大学でも)美術部に所属していましたが、学費値上げの紛争があって落ち着いて絵を描く雰囲気ではなかったので、ほとんど描きませんでした。部員数も少なかったですし私はほとんど幽霊部員でした」と、70年安保以降の時代の空気を感じさせる出来事。それに影響を受けずにはいられない学生時代を過ごされたようです。

石膏デッサンを描き続けて

 美大であれば、一般企業に就職することが珍しいと言われていたそうですが、一般大学の学生ということもあってか、他の学生同様、会社に就職して社会に出た細川先生。しかしながら、絵を描く情熱が冷めることはなくふたたび本格的に描きはじめることに。

「就職してしばらくブランクがあったのですが、デッサンができないと絵は描けないと漠然と思い…」

 30歳頃、示現会研究所に通い、石膏デッサンを描くことから再び白い画面に向き合う日々がはじまりました。

「一週間に3人の先生がいらして、月曜日は三上浩先生(日展文部大臣賞受賞画家)。火曜日が山本吉雄先生。金曜日は所栄次先生。私は夜のクラスで石膏デッサンをやっていましたが、これが私のベースになっているような気がします。
 (研究所には)たまに新しい方が入ってくるのですが、長続きする人はおらず、3年間毎夜のごとく通い続けましたが、ほぼ私一人で描いておりました。
 『塊を描け、大きな面を描け』と言われ続けてましたが、今は講師として生徒さんに同じことを言っています。  
 石膏室の隣は人体クラスで、毎日モデルさんが入っていました。石膏クラスは午後9時まで描けるのですが、人体クラスは8時半に終了するので、先生が泡盛を持って石膏クラスに入ってらして、『30分くらい余計に描いたって上手くならないからよ』とおっしゃって誘惑し、人体クラスの生徒さんもやってきて飲み会になっていました。30分くらい云々も最近はなるほどと思えてきました(笑)。」

 その後、現在はホームグラウンドと言っても過言ではない太平洋美術研究所に学び、ほどなく、武蔵野美術短期大学の通信課程も受講。通信課程という性格もあってか、

「生徒は年代も受講の動機もいろいろ、2年で卒業する人もいればドロップアウトする人もいて、それこそいろんな人の集まりだったので、それが楽しかったですね。でも皆さん誰もが一生懸命でした。」

と、絵を描く以外にも刺激に満ちた期間だったようです。
 この頃、おぼろげながら、将来できれば画家としてやっていけたらと思いはじめたそうです。

「太平洋美術会の研究所に入所した頃でしょうか。示現会研究所で3年間石膏デッサンを続けられたことが少し自信になったかもしれません。」

と、修練の手応え、自らの美のイデアの表出に納得のいった瞬間が訪れたのでしょう。
 しかし、細川先生はそこで満足することなくさらに、水彩やテンペラ(石原靖夫教室に通う)、フレスコ(独学)なども体験しつつ現在は、またさらなる表現の高みをいただくべく、カラースタディーに励んでいらっしゃるそうです。

モチーフがどのような色に見えるのか

「テンペラやフレスコは技術的な興味や絵画史の興味から勉強しました。
 現在取り組んでいるカラースタディーは、とてもシンプルです。ヘンリー・ヘンシェ(1899頃?1992年 ドイツ生まれのアメリカの画家)が提唱し、ブロックスタディーとも言われているものです。対象〈モチーフ〉が太陽光や人工照明などの光の効果を受けてどのように見える〈どのような色に見える〉かを把握し描くことです。
 修得のためのレッスンとしては、色を塗った直方体(円柱だったり球でも良いのですが)を用意し、それを、私の場合はベランダに出したテーブルの上に、色紙を敷いて、その上に置きます。一個でも良いし複数個でも良いです。直方体を逆光で見るようにセットして、それを1時間半くらいで描きます。影が動くので2時間ぐらいが限界でしょうか。
 直方体の上面と二つの側面、色紙で光が当たっている部分と直方体の影の部分、直方体のバック、それらを大きな面で描くことから始めて、その中での色の変化を徐々に探っていきます。
 繰り返し描いていると色が見えるようになるという経験者の言葉を信じて枚数を重ねています。」

 人間の眼を通して見える光(色)を正確に把握して描く。それは対象をよく見ることであり、対象そのものを把握するような表現を細川先生は目指しているのでしょう。それゆえに、見る者は細川作品のモチーフに感情がシンクロし、心動かされるのでしょう。

(作品から)光を感じてもらえたら嬉しい

 昨年の絵の現在選抜展で金賞を受賞されるまでの数年間、細川先生はその力量がようやく認められたかのように受賞ラッシュが続きました。2017年のFUKUIサムホール美術展奨励賞から19年、全日肖展小作品展部門銀賞。そして昨年22年に絵の現在第45回選抜展金賞と上り坂を一気に駆け抜けていくかのように賞を獲得していきました。

「一枚の繪」2022年10・11月号特集〈特集 絵の現在 第45回 選抜展受賞者の発表〉記事より

「(選抜展金賞受賞は)周りの変化は特にないですね(笑)。自分にとってとても大きな励みになり、今までやってきたことを続けようという力になっています。
 いただいた金賞の副賞(賞金)で、静物画を描くためにライトを購入しましました。少しづつ(静物画の制作を)始めたいです。」

と、新たなモチーフに向かって精進が始まっている様子。得意な人物画だけに留まらないのは内なる美への求道心からではないかと、作品の彩色の筆触からも強く想起させてくれます。

「地味な絵しか描けませんが、その点ですね。光を感じてもらえたら嬉しいです」

と控えめにおっしゃる細川先生。カラースタディーとホームグラウンドの太平洋美術研究所での講師としての指導、生徒一緒に精進するデッサンと、飽くなき美の表現への追求には終わりはないようです。
 2020年から続くコロナ禍のなかにあって、細川先生は制作を確保するためのご自宅のリフォームと、「俳句(もどき)」を作られているそうです。「“言葉による描写力”を鍛えられたら良いのですが」というそのこころは、キャンバスに描かれたものを言語化することによってご自身の描写、表現がさらに深化することを目論んでいるのではないかと想像するのは考え過ぎではないでしょう。
 語弊を怖れずに(対象の真の美の色を表現する)カラリストと申し上げたい細川先生の、今後の色彩に満ち満ちた作品を拝見するのが楽しみです!

細川 進
1954年 北海道生まれ
1977年 国際基督教大学卒業
1984年頃 示現会研究所で石膏デッサンをひたすら描く
1986年? 太平洋美術研究所で学ぶ
1987年 武蔵野美術短期大学通信教育課程卒業
1998年 太平洋美術会会員
2002年 太平洋美術展会員秀作賞
2003年 池袋コミュニティーカレッジ(現 池袋コミュニティ・カレッジ)でテンペラ画を修得(石原靖夫クラス)
2017年 FUKUIサムホール美術展奨励賞 太平洋美術会研究所本科講師(?現在)
2019年 全日肖展小作品展部門銀賞
2022年 絵の現在 第45回 選抜展 金賞受賞
現在 太平洋美術会会員、太平洋美術研究所本科クラス講師

細川先生の今後の活動予定
・作品掲載
「一枚の繪」2023年2・3月号(発売中)
2023年3月20日(月)発売「一枚の繪」2023年4・5月号、
2023年5月20日(土)発売「一枚の繪」2023年6・7月号に掲載予定

・展覧会
一枚の繪人気画家コレクション展
愛知県名古屋市 名鉄百貨店本店 本館10F 美術サロンI・II 2023年2月22日(水)?27日(月) 10:00?19:00(最終日は17:00まで)
※営業時間、催し内容、開催期間が変更になる場合がございますので、ご了承ください。